骨まで届きそうな寒風が吹き抜ける、晴れた冬の昼時。買い物帰りに古びた神社の前を通りかかると、珍しく人が集まっていた。子供から老人まで、ざっと20人くらいだろうか。彼らは揃って境内を見つめている。
一体何があるのだろうと足を止めると、人々の隙間から見えたのは杵を振り下ろす男性の姿だった。
「……餅つき?」
「あ、そっか。棗くん、こっちで冬越すのはじめてだっけ。毎年冬になるとね、商店街の人たちが中心になって餅つき会をやるんだよ」
「餅つき会? 餅つき大会じゃなくて?」
「うん。あくまで『餅つきしたい人が集まって餅を配る会』だからね」
「なるほど」
一緒に買い物に出ていた祈ちゃんが説明してくれる。稲守で育ってきた彼女にとっては馴染みのイベントなのだろう。
改めて餅つき会の様子を窺えば、息の合った掛け声がおれたちの方まで聞こえてきた。餅をつく人もそれを見守る人々もみんな楽しそうで、このイベントが毎年行われているというのも納得だ。
「そうだ! せっかくだしお餅もらって帰ろうよ」
「え? たまたま通りかかっただけなのに、もらいに行っていいものなの?」
「大丈夫、大丈夫。だって配るためについてるんだよ? 告知ポスターにも『もらいに来てね』って書いてあったし。だから行こう!」
ぐいぐいおれの腕を引きながら、祈ちゃんは軽い足取りで神社へと向かう。賑やかな雰囲気に充てられたのか、その声もどこか弾んでいるような気がする。
「おばさーん、わたしたちにもお餅ちょうだい!」
元気にそう宣言し、祈ちゃんは買い物袋ごと手を振った。