買い物を終えて店の外に出ると雨が降っていた。しかもバケツをひっくり返したような土砂降りだ。天気予報では雨が降るのはもっと遅い時間だと言っていたのに、やはり梅雨時の天気は信用ならない。
「雨宿りした方がよさそうかなぁ」
重たい雲に覆われた空を見上げ、ぽつりと呟く。
一応傘は持ってきているが、強すぎる雨で景色が霞む様を見ていると、とても歩いて帰ろうとは思えなかった。本も買ってしまったし、しばらく時間を潰してから帰った方がいいかもしれない。迎えを頼むことも考えたが、寄り道したせいで雨に降られている手前、少しばかり後ろめたさがあった。
ひとまず、一度店内に戻ろう。軒下で外を眺めているだけでも雨に濡れてしまいそうだ。
くるりと踵を返したその時、ポケットに入れていたスマホが着信を告げた。慌てて相手を確認すると、画面には『八尋さん』と名前が表示されている。迎えは頼みづらいな、なんて考えていた矢先の出来事に思わず苦笑いが漏れた。
これだけタイミングがいいのだ。余程の事態でなければ遠慮せず迎えを頼んでしまおう。そう心に決めて、高良は応答ボタンをタップした。
『もしもし、高良くん?』
「はい。急に電話なんかしてきて、どうしたんですか?」
『今ちょうど出先なんだけどさ、車出してるから高良くん拾ってから帰ろうかと思って。この雨じゃ、歩いて帰るの大変でしょ? 降られる前に帰れたんならそれでいいんだけど』
「今まさに困ってたところです……」
『タイミング、バッチリだったみたいだね』
「それはもう完璧でしたね」
むしろ完璧すぎて怖いくらいだ。八尋の声がどこか得意気だったので、実際口に出すことはしなかったが。
『それじゃあ迎えに行くから、場所教えてくれる?』
「駅の本屋で雨宿り中です」
『OK。駅にいるなら、東口のロータリーが見える場所で待ってて。10分もあれば着くと思うから』
「わかりました」
通話を終了すると、高良はまっすぐに待ち合わせ場所へ向かった。雨の日の駅はいつもより混み合っており、東口には同じ目的と思しき人がちらほら見えた。その人たちに混ざり、雨に濡れない位置でぼんやりと迎えを待つ。
この車は違う、あの車も違う。ちょっと似てるけどあれも違う。手持ち無沙汰に出入りする車を眺めて、何分経った頃だろう。星降荘にあるのと同じ車種がロータリーに入って来るのを見て、運転席へと目を凝らした。未だ強さを保ったままの雨のカーテンの向こう側、優しい緑色と目が合う。僅かに微笑んでくれた男性は八尋で間違いない。
高良は持っていた傘を広げると、その車に駆け寄った。
「おかえり。すごい雨だね、濡れなかった?」
「うん、大丈夫。迎え来てくれて、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
雨が吹き込まないよう大急ぎで助手席に乗り込み、シートベルトを締める。車内には雨粒が打ちつける音が大音量で響き、いつもより声を大きくしないと会話すら成立しそうにない。つくづく八尋の電話があってよかったと思う。
「どこか寄りたい場所はある? なければまっすぐ帰るけど」
「あ、帰っちゃって大丈夫です」
高良が頷いたのに合わせて、車はゆっくりと走り出した。