「それじゃ、負けた二人が買い出しってことで。じゃんけん――ぽん!」
「げっ」
掛け声に合わせて手を出すと、六人もいたのに一発で勝負がついてしまった。
思わず苦い顔をするオレともう一人の肩を叩き、絢斗さんがニコニコと笑う。
「買い出しよろしくね、二人とも」
今日ばっかりは、やけに整ったその笑顔が悪魔か何かに見えた。
一歩外に出ると、あまりの暑さに今すぐUターンして帰りたくなった。なんていうか、空気が痛い。まだ日陰にいるはずなのに、日差しが突き刺すように肌を焼いている。文字通り殺人的な暑さだ。
……この炎天下の中出掛けるのか。そう考えると思わず溜め息が漏れた。せめて車を出してもらえたらよかったのだが、タイミングの悪いことに別の人たちが使用中だった。
つまり、オレたちは歩いて買い出しに行くしかないわけで。
「…………行きたくない」
急いで買い物を終えて帰った方がいいことはわかっていたが、道路すらも焼く太陽を前に、身体が日向に出ることを拒んでいた。こんなの絶対、人間が出歩く気温じゃない。
既にぐったりした状態で隣を見上げれば、やっぱりこれは普通の反応らしい。もう一人の買い出し係――圭介さんもまた、いつもの涼しげな顔を暑さで歪めていた。
「そもそもなんで俺たちが行かなきゃいけないんだよ、言い出しっぺが行けばいいのに」
「あはは……絢斗さんの誘導、うまかったですもんね。気付いたらみんな巻き込まれてたし」
「ホント、口がうまいというかよく回るというか。詐欺師の才能あるんじゃないか?」
「あんまり嬉しくない才能ですね……」
まあ、人によるとは思うけれど。少なくともオレとは一生無縁の才能だ。
「……はあ。そろそろ諦めて買い出し行くか」
二人して溜め息をつき、覚悟を決めて日向へ足を踏み出す。案の定、空気と日差しでじりじり焼かれる肌が痛い。たぶん、今のオレたちの心には「早く買い出しを終わらせて帰りたい」という気持ちしかないだろう。
圭介さんがある提案をしたのは、目的の店まであと少しの頃だった。
「帰りにコンビニ寄ってアイスでも買うか」
「いいですね、それ。あ、でもオレ自分の財布持ってきてない」
「ああ、いいよ。俺が奢るから」
「え? でも……」
「こういう時は遠慮しないで、素直に奢られておきなよ。その方が俺も嬉しいし。ね?」
「……うん。じゃあ、甘えさせてもらいます」
言われた通り素直に頷くと、圭介さんは嬉しそうに目を細めた。人を頼ることにはまだ少し抵抗があるけれど、こうして受け入れてくれるとオレの方まで嬉しくなってしまう。
どのアイス買おうかなんて話しつつ、オレたちは少しだけ歩く速度をあげた。