「だから飲みすぎだって言ったのに」
溜め息をついて、すっかり静まり返った隣を見やる。
こたつの一角を占拠して、八尋さんが穏やかな寝息を立てていた。腕の中には、抱き枕にされた高良がすっぽりと収まっている。少し前まではぽつぽつと俺たちの会話に混ざっていたが、いつの間にかこちらも眠ってしまったらしい。
なんとも平和な大晦日である。
数時間前まで初日の出が見たい、初詣に行きたいと騒いでいたのが既に懐かしい。まあ、正直に言ってしまえば、酒を開けた時点で遅かれ早かれこうなる予感はあったのだが。人並み程度しか飲めないのに、八尋さんはペースが早すぎるのだ。
――ともあれ。半数の同居人が帰省し、星降荘で一番騒がしい男が高良を巻き込んで撃沈した今、この場で起きているのは俺と雪見さんだけだった。無口ではないけれど、八尋さんのようによく喋るわけでもない彼と過ごす時間は穏やかで心地よい。
「絡まれるくらいなら、寝ていてくれた方がよっぽどいいんじゃないか? 酔った八尋は面倒だからな」
「あはは、確かに。でも、ちょっと調子が狂うのも事実なんですよね。ここに来てから、年越しといえば騒がしいのが定番でしたから」
「毎年あの調子なのか?」
「恐ろしいことに」
そうなのだ。大晦日になると、八尋さんはいつにも増して騒がしくなる。本人いわく「年越しってなんかテンションあがるんだよね」とのことだが、だいたい飲酒のせいな気がしなくもない。どちらにせよ、雪見さんはいつも年末には帰省してしまうから知らなくて当然だ。ていうか、
「今さらですけど、今年は帰らなくてよかったんですか?」
俺にしてみれば、今この場に雪見さんがいる方が珍しい。こうして一緒に年末を過ごすのは大歓迎だが、珍しいだけに理由は気になる。
今さらすぎる俺の問いかけに、雪見さんは一瞬の間を開けて答えた。
「……今年は妹が忙しいらしくて、予定が合わなかったんだ」
「妹さん?」
「ああ。毎年予定を合わせて帰っているんだ。今年はどうしても年明けになってしまうそうだから、俺もそれに合わせて顔だけ出して来ようと思っている」
「へぇ。仲いいんですね」
「……そうだな。可愛い妹だよ」
妹さんのことを話す雪見さんは目に見えて上機嫌で、本当に仲がいい――というか、妹さんが可愛いんだなと微笑ましくなる。でも、その姿が普段の彼と結びつくかと言われるとそうでもなくて。もしかするとこの人も、酔いが回りつつあるのかもしれない。
そう、思っていたのだが。
「…………あ」
二人揃って声をあげる。
流しっぱなしにしていたテレビから、年が明けたことを知らせる話題が聞こえていた。一体いつの間に年を跨いでいたのだろう? どうやら酔いが回ってきたのは俺も同じらしい。
「あけましておめでとう、要」
「おめでとうございます。年、いつの間にか明けてましたね」
「そうだな」
視線がかち合うと、どちらからともなく笑みが漏れた。
俺にとっては騒がしい年越しが定番ではあったけれど、たまにはこうして穏やかに過ごすのもいいかもしれない。