研究室の掃除


「……おや?」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

「いえ、珍しく順番が乱れているな、と思いまして」

 

 順番? と首を傾げ、幸が見つめる本棚を覗き込む。言われてみれば、並べられたファイルの分類がおかしなことになっていた。

 射水ゼミの研究室には大量の本棚がある。そこには先生やゼミ生が勝手に置いていった多種多様な本、レポートや論文のコピー、フィールドワークの報告書と称した手書きのメモの束など、資料になりそうなあらゆるものが押し込まれている。あまりにも雑な管理に耐え切れず、つい数日前にも亜季が片付けた……はずなのだが。ジャンル別に並べていた本とファイルは引き離され、全く関係ない資料が間に挟まっていた。なんなら見覚えのない資料まで紛れて――

 

「……何日か前に射水先生が色々持ち込んでたから、たぶんその時だな」

 

「ああ、なるほど。あの人も変わっていませんね」

 

 唯一の心当たりを告げれば、幸は納得の声をあげた。

 この研究室の指導教員である射水薫は整頓という言葉を知らない。彼はふらりと研究室に立ち寄っては、持っていた資料を適当な本棚に放り込む。その辺に放置されないだけマシではあるが、何度元の場所に戻せと言っても「忘れてた」と笑うばかりで、聞き入れてはくれないのだ。

 

「ったく、つい最近片付けたばっかりだってのに……」

 

「君も相変わらず苦労していますね。片付け直すなら手伝いますよ」

 

「締め切りは?」

 

「多少なら余裕ありますし、大丈夫ですよ」

 

「そういうことならお言葉に甘えて。一人だと面倒だから助かる」

 

 重い腰を上げ、幸と二人で問題の本棚と向き合う。一見する限りそこまで酷い散らかり方はしていないようだが、果たしてどれだけの資料が勝手に追加されたことやら。

 思わず溜め息をついて、亜季は明らかに場違いな資料へと手を伸ばした。