『今夜から明け方にかけて流星群がピークを迎えます』
点けっぱなしのテレビから聞こえるアナウンサーの声が、天体ショーの訪れを告げている。今まさにそれの準備を進めている僕にとっては、なんともタイムリーな話題だ。
お気に入りの天体望遠鏡をケースに仕舞い、すぐに持ち運べるようにしておく。あとは出掛けるまでに温かい飲み物を用意して、それから――
「ずいぶんご機嫌だね、伊純」
突然背後から声をかけられ、僕は思わず飛び上がりそうになった。勢いよく振り向けば、いつの間に帰ってきたのだろう。買い出しに出ていたはずの同居人が立っていた。
「びっくりした……万里、帰ってたんだ。おかえり」
「ただいま。ちょうど今帰ってきたところだよ」
「……鍵が開く音なんてしたっけ?」
「準備に集中しすぎてたんじゃない?」
そんなことないよ、とは口が裂けても言えなかった。今回もそうだったかはともかく、心当たりがありすぎる。
否定の代わりに苦笑いを浮かべると、万里は「やっぱりね」とでも言うように肩をすくめた。
「流星群、今夜なんだ?」
「うん。万里も一緒に行く?」
「僕はいいよ。寒いし」
「星って寒い方が綺麗に見えるんだよ」
「知ってるよ。何回も聞いた」
買ってきた食材を冷蔵庫に入れながら、万里は慣れた様子で返してくる。今までも似たようなやり取りを何度もしているから、これは僕らの"お約束"みたいなものだ。実際、僕も断られるの前提で声をかけている部分がある。
だから、今日もいつも通りの結果になると思っていた。
「……ああ、でも。やっぱりたまには行こうかな」
「え?」
「伊純から誘ったくせに、何その反応?」
「いや、だっていつも断られるから。どういう風の吹き回し?」
まさか頷いてくれるとは思ってもいなくて、幽霊でも見るような目を向けてしまった。一緒に行ってくれるのは嬉しいけれど、本当にどうしたのだろう。何かいいことでもあったとか?
なおも怪訝な顔をする僕を、万里は眼鏡の奥の瞳を細めて振り返った。
「ただの気まぐれだよ」