恋する君が一番可愛い!


「四葉ちゃんに相談があるんだけど」

 

 やけに真剣な顔をするましろちゃんにそう声をかけられて、私たちは大学内にあるカフェテリアに来ていた。何か飲みながら話すならうちの喫茶店でもいいのにと思ったけれど、どうやら知り合い――たぶん理人さんかな――に聞かれたくないらしい。

 それぞれアイスコーヒーとスイーツを手に適当な席を陣取ると、ましろちゃんはストローに口を付けたままぼそりと言った。

 

「やっぱり、強い女の子って可愛くないかな?」

 

「えーっと……なんの話?」

 

 思わず首を傾げてしまった。色んな部分を端折っていきなり本題に入られても、私に超能力はないよ? ましろちゃんの意図を正確に汲み取るなんてできるわけがない。まあ、理人さんに聞かれるのを避けている時点でなんとなく予想は付くけれど。

 ましろちゃんは周囲を気にするよう視線を泳がせると、声を潜めて事情を説明してくれた。

 

「理人さんの仕事のことは四葉ちゃんも知ってるよね? 勢いで無理やり助手にしてもらったけど、足手まといにだけはなりたくなくて。せめて自分の身は守れるように、改めて剣道習おうかなって思ったんだけど……女の子が強かったら、可愛いとは思わないよね……」

 

 話しているうちに悲しくなってきたのか、ましろちゃんの声がどんどん小さくなる。今の話を聞く限り、理人さんに迷惑はかけたくないけど「可愛い女の子」としても見て欲しい、ということなんだろう。恋する乙女ならではの悩みだ。

 

「強いと可愛いって両立できると思う?」

 

「うーん、それは理人さんの趣味によるんじゃないかな。可愛いの基準って人それぞれだし」

 

「だよねぇ」

 

 はあ、と盛大な溜め息をついて、ましろちゃんはそのままテーブルに突っ伏してしまった。

 本気で悩んでいる彼女には悪いけれど、こうやって話を聞くのはちょっと楽しい。私自身、恋愛感情とあまり縁がないからなおさらだ。思わず笑みを漏らすと、じとりとした抗議の視線が飛んできた。

 

「もう、真剣な話なのに」

 

「えへへ、ごめんね? でもなんか、ましろちゃんが思ってるより強いと可愛いの両立って簡単な気はしてきたかも」

 

「本当!? でも、なんで?」

 

 ましろちゃんは勢いよく身を起こしたかと思うと、流れるような動きで首を傾げた。そういう仕草を素でやるところだよ! と言いたくなったけれど、これは私の趣味だからぐっと飲み込む。

 なんで、なんで? と目で訴えてくるましろちゃんに、私は自信満々に答えた。

 

「だって自分のためにいっぱい悩んで、頑張ろうとしてくれてる女の子が可愛くないわけないもん!」