来客を知らせる涼やかなベルに続き、「こんにちは~……」と控えめな声が聞こえた。ブックカフェである『Printemps』でわざわざ挨拶をする女の子なんて、僕は一人しか知らない。
「いらっしゃい、ましろちゃん」
声をかけると、彼女は律儀に頭をさげた。それから誰かを探すよう、店内に視線を巡らせ始める。誰を探しているのかだいたい予想はつくけれど、あいにくここには僕しかいない。
「四葉なら買い出しに行ってるよ」
「あ、そうなんですか? 入違いかぁ」
「出掛けて30分は経ってるから、そろそろ帰ってくると思うよ。何か読みながら待ってたら?」
「そうですね。そうします」
頷いたましろちゃんは本棚の前に立ったものの、何度も本を取り出してはしまってを繰り返している。傍目から見れば挙動不審、明らかに落ち着かない様子だ。これはもしかして――
「待ってるの、四葉じゃなくて理人?」
「うっ」
ビクリと華奢な肩が揺れる。本当にわかりやすい子だ。そう思うと同時に、こんなにも慕ってくれる子がいる理人が少しだけ羨ましくなった。