幸せの青いクマ


「……あれ? 何か届いてる?」

 

 学校から帰宅後。いつものようにゲームにログインした私は、画面の隅で点滅するアイコンに首を傾げた。

 プレゼントボックスの形をしたそのアイコンの中には通常、記念のプレゼントや補填アイテムなどが配布される。逆に言ってしまうとそれ以外に使い道はなく、メンテ明けや記念イベント期間くらいしか使われることがない。私の記憶が正しければ、今はどちらの期間でもない……はずなんだけど。なぜかアイコンが点滅していて。

 

 もしかして、学校行ってる間に緊急メンテでもしたのかな? 空いている時間にSNSで情報をチェックしてたつもりなんだけど、まあ、見逃すこともあるか。

 アイテムが配られる分には大歓迎だし、私は深く考えずにアイコンをクリックした。そのあまりにも軽率すぎる行動に、数秒前の自分をぶん殴りたくなった。

 

「えっ……え? えええええええ!?」

 

 嘘、嘘でしょ!?

 届いていたアイテムに添えられた、たった数文字のメッセージ。それが目に入った瞬間、心臓が止まるかと思った。

 

『モモさんからのプレゼント:誕生日おめでと~! よかったら使ってね!』

 

 私は大急ぎで通話アプリを立ち上げた。ほんの数秒のロード時間すら惜しい。この時間なら、先輩はもう通話部屋にいるはず――早く、早く先輩と話をさせて!

 アプリが立ち上がるやいなや、私は「オルタナティブ」の通話部屋に乗り込んだ。

 

「桃花先輩!!」

 

『わっ! ア、アオちゃん?』

 

「プレゼントって……あれ……!」

 

『あ、ちゃんと届いてた? 実はきのう、アオちゃんが寝た後にこっそり送っておいたんだよね』

 

 えへへ、と桃花先輩が笑う。その嬉しそうな声に、私まで幸せな気分になってきた。きっと通話の向こうで、可愛い笑顔を浮かべてるんだろうなぁ……じゃ、なくて!

 確かにきのう、今日が誕生日だって話はした。先輩含め、その場に居合わせたみんなに「おめでとう」って言ってもらって、今年も祝ってもらっちゃった! って、上機嫌で寝て。それだけでよかったのに。十分幸せだったのに。

 ――サプライズのプレゼントまで用意されてるなんて、私このまま死ぬんじゃないの!?

 

『アオちゃんって、ステータスに直結しないアイテムにはあんまり課金してないでしょ? あれなら装備も選ばないし持ってないかな、と思ったんだけど……』

 

「あの通知が幸せすぎて受け取りたくない……っ!」

 

『え!? そこは受け取って欲しいんだけどなぁ……?』

 

 ちょっと困惑気味の先輩も可愛い……いやいや、私は先輩を困らせたいわけじゃない。通知はスクショで保存することにして、素直に受け取ることにしよう。

「今すぐ受け取ってきます!」と言い残し、放置していたゲーム画面を開いた。ボックスの中身を何枚かスクショし、意を決してそれを受け取る。普段私が買わないようなアイテムみたいだけど、一体何を贈ってくれたのだろう。

 

「こ、これは……!」

 

 青いテディベアだった。ハウジング用の家具の1種でありながら、特殊なアイテム――しっかりこれも同封されていた。さすが先輩! ――を用いることでペットとして連れ歩くこともできる、ちょっと変わった装備品だ。ただステータスとは関係ないシステムだから、先輩の予想通り、私は手を出していなかったのだけれど。

 黙り込んでしまった私を気にしているのか、『どうかな?』と、先輩が不安そうな声で尋ねてくる。そんなの、答えは決まってる。

 

「ありがとうございます、先輩! いっぱい連れ歩きますね!」

 

 その宣言通り、この日を境に私が青いテディベアを連れ回すようになったのは、言うまでもないだろう。