冬の恒例行事


 脳内で生まれた物語を指先で整えて、少しずつ形にしていく。その過程は楽しいけれど、何時間も続ければ当然疲れが顔を覗かせる。人より身体が弱い僕ならなおさらだ。

 ――まあ、ここまで書けたら締め切りには間に合うだろう。外も暗くなってきたことだし、今日のところは作業を切り上げて、何も考えていなかった夕飯の心配をするべきかもしれない。

 パソコンを閉じるとひとつ伸びをして、僕は冷蔵庫の中身を確認しようと立ち上がった。すると、その時だ。まるでタイミングを見計らったかのように、めったに鳴らないスマホが着信を告げた。

 

「……智隼くん?」

 

 誰からだろうと画面を見れば、よく知る友人の名前が表示されていた。彼とはそれなりに連絡を取り合う仲ではあるが、チャットではなく電話とは珍しい。何か急用だろうか?

 内心首を傾げつつ、僕は応答ボタンを滑らせた。

 

「智隼くん、どうかしましたか?」

 

「用事ってほどの用事じゃないんだけどさ。材料買っていくから鍋食わねえ?」

 

「ああ、もうそんな時期ですか」

 

 寒くなってくると、智隼くんの誘いで僕らは鍋を囲む。彼曰く「鍋は一人で食べるものじゃない」そうで、いつも唐突に電話を寄越しては、材料片手に僕の部屋へやって来るのだ。以前はどうして僕が付き合わなければならないんだと思ったものだが、今ではすんなり受け入れているのだから慣れというのは恐ろしい。

 

「わかりました。土鍋、出しておきますね」

 

「さんきゅ! じゃあ、またあとでな」

 

「ええ、またあとで」

 

 電話を切って、僕はまっすぐに台所へ向かった。夏場はさすがに使わないからと、箱に仕舞ってしまった土鍋を棚の上から降ろさなければ。ああ、ついでに来客用の食器も洗っておいた方がいいかな。

 彼が来るまでにやるべきことを思い浮かべつつ、僕は棚の傍まで椅子を移動させた。