今日もアメが降る


「もしかして、先輩って雨男だったりする?」

 

「今はじめて言われたよ。そういうお前はどうなんだ?」

 

「ボクも言われたことないかな~」

 

 買い物がしたいと言う七海に付き合い、ショッピングモールまでやって来た数時間後のことだ。帰ろうとした俺たちを出迎えたのは、それはもう見事な雨だった。

 この時期、晴天から突然の豪雨に見舞われることはそう珍しくない。なんなら、つい先日も似たような目に遭ったくらいだ。でも傘を持ち歩く習慣のない俺は、その日も、そして今日も傘なんか持っていないわけで。

 

「仕方ねえ、雨宿りして帰るか。向こうの方晴れてるし、すぐに止むだろ」

 

 幸い、ここなら暇潰し場所には事欠かない。急いで帰る理由もないことだし、あと少しくらい歩き回ってみてもいいだろう。

「七海、どっか寄りたい場所あるか?」

 特に行きたい場所もなかったので後輩の方を振り返ってみる。すると七海は珍しいことに、遠慮がちに目を伏せて言った。

 

「寄りたい、というより食べたいものならあるよ。最近噂になってるスイーツでね、すごい見た目が可愛いの。しかも美味しいんだって! ちょっと並ぶみたいだから先輩と別れたあと一人で行こうかな、と思ってたんだけど……」

 

 ちらりと上目遣いの視線を向けられる。その顔は俺にも付き合って欲しい、と訴えている。

 スイーツ目当てに連れ回されるのは今に始まったことではないし、今さら嫌だと言うつもりもないが、七海はとにかく食べる量がえげつない。人並みにしか食べない俺にしてみれば、見ているだけで胸焼けしそうになるほどだ。今日は一体、どれだけ買うつもりなのやら。

 

「……俺は食べないけど、付き合うくらいはしてやるよ。どうせ雨止むまで帰れないし」

 

「本当? ありがとう、先輩!」

 

 途端に花が咲いたような笑顔を浮かべ、七海は俺の腕を取り出てきたばかりの自動ドアを引き返した。心なしかその足取りが弾んで見えて、出かかっていた俺の溜め息は、いつの間にか小さな微笑みに変わっていた。