連日のように重たい雲が広がる梅雨の朝。雨に降られながら図書室まで来た俺を出迎えたのは、いつもとは少しだけ違う景色だった。
「あれ? こんなのあったっけ?」
窓の鍵に引っ掛ける形で、白い塊がぶら下がっていた。まるい頭にワンピースでも着たようなシルエット。妙に愛らしい顔が描かれたそれは、どこからどう見てもてるてる坊主である。きのうはなかったと記憶しているが、一体誰が、いつの間にぶら下げたのだろう。
「先生、どうしたの?」
気ままに揺れるそれを前に首を傾げていたら、不意に誰かに服を引っ張られた。聞き覚えのある声に振り向けば、絶賛図書室登校中の男子生徒――葵くんが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「ああ、おはよう、葵くん。これ見てよ」
「……てるてる坊主?」
「うん。出勤してきたらここにあったんだけど、誰がぶら下げたのか知ってたりしない?」
「え、先生が作ったんじゃないの?」
彼の中で俺はどういう人だと認識されているのだろう。今の反応からして聞かない方がよさそうだけど。
「いやいや、さすがに学校じゃ作らないって」と首を振り、ひとまずてるてる坊主を回収した。あとでこれを持って、俺より遅く帰った同僚に真相を確かめに行くとしよう。