その一言が言いたくて


 カーテンの隙間から差し込む光が眩しくて、相羽つぐみの意識は覚醒した。開くことを拒否する瞼を擦り、あちこち痛い身体をのそのそと持ち上げる。

 ……あれ? なんでこんなに身体が痛いんだっけ?

 まだ半分寝ている頭で考えて、つぐみはすぐに思い出した。そうだ、きのうの夜――

 

「やっちゃった…………」

 

 思わずベッドの上で項垂れる。

 きのうの夜、つぐみはいつものように同居人の帰宅を待っていた。帰りが遅くなる旨の連絡は来ていたし、先に寝てていいよ、とも言われていた。それでも、どうしても「おかえりなさい」が言いたくて。リビングで彼の――樹の帰りを待っていたはずが、そこから先の記憶がない。どうやら樹が帰って来る前に眠気に負け、あまつさえ待っていた相手に部屋まで運ばせてしまった……ということなのだろう。

 きっと疲れていただろうに、とんだ迷惑をかけてしまった。

 申し訳なさで再びベッドに倒れ込む。ただでさえ色々とワガママを聞いてもらっているのだから、せめて余計な迷惑をかけることだけは避けなければ。

 

「……あ! 朝ごはんの用意しなきゃ」

 

 ようやく目覚めた頭で思い出し、慌てて時計を確認する。そろそろ樹が起きてくる時間だ。

 着替えも忘れて部屋を飛び出すと、ふわりといい匂いが鼻を刺激した。いつもつぐみが立っている場所には見慣れた背中が見える。ドアを開ける音に気付いたのか、その人――樹はつぐみの方を振り返り、つぐみの大好きな笑顔を浮かべた。

 

「おはよう、つぐみちゃん」

 

「……おはよう、ございます」

 

 きのうのこと、謝らなきゃ。

 頭ではわかっているのに、結局、声になったのは違う言葉で。あとで謝らなきゃと思いながら、つぐみは樹の隣に駆け寄った。