雪掻きのために渋々外へ出ると、一面の銀世界が広がっていた。きのうの昼から降り続いた雪はこの辺りの地域にしては珍しく、10cm程度の積雪を記録したらしい。
「思ったより積もってるな」
「ね。こんな真っ白になるとは思わなかったよ」
「雪掻き面倒くせえなぁ」
「こういう時、魔法が使えたら楽なのにね」
一緒に出てきていた尊はそう言って、くるりと指先で弧を描いた。
確かに、魔法のひとつでも使えたら……と思わなくもない。一般的に魔法とは「人を幸せにするためにある」らしいから、雪掻きに使っていいのかは疑問だが。まあ、魔法の使えない俺らには関係のない話だ。
「話してても仕方ねえし、さっさと始めるか」
「そうだね。僕も手伝う――あ! ちょっと待って」
「どうしたんだ?」
「雪掻きする前に、ちょっとだけ歩いてもいい? まっさらな雪見てたら足跡残したくなっちゃった」
えへへ、と笑う尊の提案は、雪でテンションがあがった子供のそれだ。俺も小さい頃は同じことをやっていたから、その気持ち自体はわからないこともない。
だから俺は「気が済むまで歩いて来なよ」の意味を込めて「いってらっしゃい」と手を振ったのだが――
「何言ってるの、伊吹も一緒だよ」
「……は?」
「僕ひとりだと雪に足取られて転ぶかもしれないし。エスコートしてもらわなきゃね」
「お前なぁ」
「ほらほら、腕貸して」
返事も待たずに尊はこちらへ手を伸ばした。その顔は「拒否されるわけがない」と自信に満ちて見える。まあ実際、俺がこいつを拒否できるわけもないのだが。
「仕方ねえな」と溜め息をつき、軽く腕を持ち上げる。尊は満足げに手を添えると、足跡ひとつない白銀の大地に足を踏み出した。