宝石箱を君に


「……何やってるんですの?」

 

 部屋に戻ったルナの第一声がそれだった。

 目の前には机に置かれた小瓶をじっと見つめるルームメイトの姿がある。彼女は今の声を聞いていたのかいないのか、「きれい」とだけ呟いて、こちらを振り向きもしない。

 

「ちょっとライラ、聞いてますの?」

 

「……あ。ルナちゃんだ。おかえり~」

 

「ただいま戻りましたわ。……って、そうじゃなくて!」

 

 独特のテンポで生きるライラに流されかけて、ルナはハッとして首を振った。

 同室を充てられてそれなりの期間が経ったが、未だに彼女のペースはよくわからないままだ。さすがに慣れてはきたものの、微妙に噛み合わない会話に頭を抱えるのはすっかり日常と化してしまった。

 

「貴女、何してますの?」

 

「これ。きれいだな~、って」

 

 そう答えて、ライラは小瓶を指さした。

 それは長期休暇のお土産にと、ルナが買ってきたものだ。中身はカラフルな飴玉で、彼女の言うように「きれい」で思わず手に取っていたのをよく覚えている。

 少女の口から同じ感想が漏れたことで気を良くしたのか、ルナは満足げに頷いた。

 

「ええ、そうでしょう? わたくしも気に入ってますの」

 

「なんだか宝石箱みたいだね」

 

「確かに、小さな宝石箱を買ったみたいですわね。あいにく、中身は飴玉なのだけれど」

 

「アメ? じゃあ、食べられるんだ。この宝石」

 

「それはもちろん。気になるなら好きなだけ食べて構いませんわよ。元より、そのつもりで買ってきましたもの」

 

「本当? ありがとう、ルナちゃん」

 

 ふわふわと笑い、ライラが小瓶の蓋に手をかける。からん、と心地良い音を立て、飴玉が揺れた。